秋桜のエッセイ

記憶について

2004-12-27

「あの人は記憶がいい」「私って記憶力がない」といったことばはよく耳にしますが、そもそも記憶ってどんなものだと思いますか?

通常私達が「記憶」と意識しているものは「過去に覚えたものの想起」を表していることが多いのですが、覚えてからの時間によって種類が分かれます。また、覚えている記憶事項によっても分類されます。この分類法についても様々な説がありますが、一般的なものを紹介したいと思います。

まず外部から刺激が入ってきた際、感覚器を通して大脳の感覚野が刺激されます。この刺激を感覚記憶と言います。この刺激は数分の一秒という短期間で消去されます。ただ、この記憶は意識して覚えられないものなので、記憶の種類から外している人もいます。

次に短い時間だけ覚えているもの(例えばメモされた電話番号を一瞬だけ覚えて電話をする)を「短期記憶」と言います。この時間は長くて30秒程度と言われています。

さらにそれより長くて数時間ぐらいまでの記憶を作業記憶(ワーキングメモリー)と言います。これは分かりやすく言うと「パソコンのメモリー」に相当するもので、文字通り何か作業をするときに一時的に覚えておく記憶のことです。それと同時にある作業する時に必要な事項を長期記憶から引き出す時にもこの作業記憶が用いられます。

短期記憶は大脳辺縁系にある海馬という場所が関係しています。そのため脳症などで海馬が損傷されると新しい事項が学習できず、前向性健忘という症状が出ます。また作業記憶は海馬に加えて前頭連合野という場所も大きな役割を果たしているという説が出てきています。ここから大脳半球へ刺激が伝わると長期記憶となり、いわゆる「覚えた」という状態になります。

ところが自閉症やアスペルガー症候群の場合、物事を「覚えて」いてもそれをうまく活用することが困難な例が多くみられます。そのため作業記憶が関わっている前頭連合野に何らかの障害があるのではないか、という説が最近出てきています。

前頭連合野は最近注目されてきた部位で、他の部位からの情報を統合して行動を組み立てる、行動のコントロールするといった人間の高次な行動を司る場所です。サルと比較してもヒトの前頭連合野は脳に占める割合も大きく、機能も発達していると言われています。事故などでこの部分が損傷されると「前頭葉症状」という高次脳機能障害が出現します。

覚えた記憶も「言語的な記憶」と「非言語的な記憶」に分けられ、さらに言語的な記憶は「意味記憶」と「エピソード記憶」に分けることができます。意味記憶は試験勉強などで覚えるあまり感情を伴わない種類の記憶で、エピソード記憶はいわゆる「思い出」というもので、感情を伴う種類の記憶を指しています。

これと同時に大脳半球があまり関わっていない種類の記憶があります。運動の記憶などは小脳、呼吸や嚥下といった生命の維持に関する運動の記憶や学習は脳幹が関わっていると言われています。ただしこれらを上手に組み合わせるには大脳半球の助けが必要です。

記憶の研究は20世紀に本格的に始められ、脳の画像診断の進歩と共に解明されてきた分野であり、まだまだ未知のことが多い世界です。今後私達が思いもよらないメカニズムが解明されるかもしれません。


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