秋桜のエッセイ

最近の報道や出版について感じること

2005-01-14

最近アスペルガー症候群本人が手記や対談を出版するケースが増えてきた。10年位前だと数冊しか出ていなかったから、まさに怒涛の勢いと言っていいだろう。一時期までは日本で出版されているアスペルガー関係の本はほとんど持っていたが、今では知らないうちに出版されているケースが増えてきた。それだけアスペルガー症候群というものが知名度を上げてきたのだと感じている。

しかしそれと同時に最近は情報ばかり集めているケースも増えてきた気がする。仕事で面接していても本やネットなどの情報はよく読んでいるが、書かれていることとわが子の実際の行動とどう結びついているのかが全く分からないように見受けられる親御さんを見かけるようになった。情報ばかりに振り回されてしまい、「うちの子はここが当てはまるから、自閉症だと思うんですが」「こういうところはないから、うちの子は自閉症じゃないと思います」といったコメントも聞かれるようになった。

確かに自閉症もアスペルガーも「症候群」なのである一定の類型パターンというものは存在する。しかし出てくる行動は個人差が大きいため、理解するにはやはり経験と想像力が必要になってくる。大まかに広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)かどうかというのは診断するドクターや医療従事者が慣れている人なら一度会えば分かるが、グレーゾーンの場合は何度か面接を重ねる必要がある。また評価や診断に当たった人間が自閉症に慣れていない場合はその判別は非常に困難である。同時に今後のアドバイスなどをするためには知的評価を含めた細かい評価をしてみないと専門家でも分からないことが多い。また環境因子なども関わってくるため、そういう因子を除外して考える必要があり(完全に排除することは困難だが)、二次障害が出ている場合はさらに診断が難しくなる。そのため活字やメディアだけの知識で判断することは非常に危険であることをよく理解していただきたいと感じている。

それと同時に気がかりなのは、ある本やテレビ番組だけの情報で「自閉症(アスペルガー症候群)ってこういうもの」という決め付けをされることである。もちろん常同性行動(いわゆるこだわり)や感覚過敏、そして社会性の問題など共通する内容もあるが、社会性のタイプや情報処理の方略が違っている場合、同じ「自閉症(アスペルガー症候群)」という診断名でも全然異なった臨床像であり、一見同じ診断名の患者には見えないということがよくある。仕事柄色々なタイプの自閉症やアスペルガーの人たちに会ってきたが、一人として全て同じ特徴を持っている人はいなかった。それゆえ自己流で判断せず、できたら信頼できる専門家に相談して欲しい。

情報の読み方としては「こういう場合もある」という気持ちでまず取り入れ、自分の身近なケースと照合して考えていただきたい。そして一番認知特性が近いタイプの手記を見つけたら、それを参考にしたらいいと思う。またもっと様々なケースの手記が出てきて情報の選択肢が広がると、療育をしていく上で参考になるのではと感じている。

いずれにしても"one of them"という意識を持って上手に情報を活用していだきたい。


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