交流分析について(その1)
2005-06-09
私が人間関係を考察する際によく利用している理論の一つに交流分析(Transactional Analysis:TA)がある。大学時代ある大学病院の心療内科で交流分析を用いたカウンセリングを行っている先生が講義に来たので受講した所、今まで自分が漠然と悩んでいたことが明確になって頭の中の霧が晴れたような気持ちになった。それ以来折に触れて自分の中の状況を整理する手段にしている。
交流分析はアメリカの精神科医エリック・バーンが1950年代に提唱し、その後世界中に普及した治療法である。バーンは初め精神分析医を目指していたが、それがかなわなかったことから1957年に彼自身が考えたTA理論を発表した。TAは精神分析の口語版とも言われており、記号や図式を使って簡単に分かりやすく説明できるという特徴がある。アメリカの精神療法家の間で高く評価され、一般にも急速に広がっていった。日本へは九州大の池見酉次郎教授によって1972年に導入され、以来様々な分野で使われている。
TAの哲学は3つあり、
1.人は誰でもOKである。
2.人は誰でも考える能力を持っている。
3.人は誰でも自分の運命を自分で決めることができ、またその決定を変えることができる。
TAの目的は大きく以下の3つに分けられる。
(1)ありのままの自分を発見する
TAは「気づきの理論」と呼ばれており、自分の中の気付かなかった部分について明らかにしていくことで自分の本当の心や本当の姿を知る手がかりになる。自分を知るというのは実は一番難しいことであり、自分を見つめる機会をTAで作ることによって自分の中の問題点を明確化していくきっかけを作ることが可能になる。
(2)心と体のセルフコントロールが上手になる
自分のありのままの姿や感情に気付いてそれを大切にするのはいいことだが、みんながそればかり出していると社会は混乱状態になってしまう。TAでは「自己主張をしながら周囲と調和する」というのが人間らしい生き方としている。そのためにはいかに自分をセルフコントロールし、どんな状況でも上手に自分をコントロールできるかが大切になってくる。現代は心身にトラブルを抱えることが多く、心と身体の調和がいかに自分らしい生活を送る上で重要なのかもTAの理論を用いて考えるとよく分かってくる。
(3)自己実現
「ありのままの自分をセルフコントロールしながら、社会の中で生きがいを持って自分らしく生きていく」というのがTAの究極の目標である。最近は生きがい探しをしてもなかなか見付からずにイライラすることがあるが、本当の生きがいとは周囲と上手に調和を取りながら自分の欲求を満たすことである。たとえそれが自己満足で終わっても自分が満足感を得られればそんな自分に自信が持って生活ができる。TAではそれが「生きがい」であり、「自己実現」と考えている。
交流分析でまず知っておくべきことは以下の4つの項目についてである。
(1)構造分析(Structural Analysis)
これは各人のパーソナリティの分析を目的とするものである。人の心に3つの自我状態(親、大人、子ども)であり、必要に応じて3つのうちの1つが主導権を握る。その自我状態が一体どのような仕組みになっているのかを明確にすることが構造分析の目標である。エゴグラムというテストはこの構造分析を具体的に分かりやすくするための方法の1つとして開発された。
(2)交流パターン分析(Transactional Analysis)
二者間の交流パターンを分析するもので、狭義の意味での交流分析である。自分の他人に対する対応の仕方や、他人の自分への関わり方などを調べて、二人の自我状態のコミュニケーションを探る物である。他者との関わりで大切になってくるのがストロークという人間関係の中で生じる様々な心の触れ合いにおける分類である。
(3)ゲーム分析(Game Analysis)
人間関係の中でトラブルになってしまうこじれた交流をTAではゲームと呼ぶ。バーンはゲームを「人間の行動の中で予測可能で定型化し、一般に破壊的な結末で終わるもの」と定義している。言い換えれば繰り返し行われる非生産的な対人交流の儀式がゲームなのである。このようなやり取りの中にある人間関係のからくりを考えていくのがゲーム分析である。
(4)脚本分析(Script Analysis)
TAでは人生を1つのドラマとして捉える。そのシナリオは人生早期の親子関係によって作られ、人生への反応様式を決定するとされる。そのため脚本はその人の人生の中で最も重要な場面で行動を指図し、決断を行わせる。脚本が建設的であるか、破壊的であるかを調べ、もし破壊的であれば「いま、ここ」で書き直すことがTAの究極的な目標となる。この脚本分析は上の3項目について考察を重ねた後に初めて考えていく内容である。