秋桜のエッセイ

鈴木昌樹先生のこと

2005-09-08

鈴木昌樹先生のことを現在知っている人は30代以下だと発達障害を専門にしている人でも少ないと思う。しかし鈴木先生は1970年代にすでに発達障害について障害について現代に通じる分類を行っており、家庭や専門家による療育をすすめていた。

私の母は私が4歳頃に鈴木先生の著書を療育の先生から勧められ、読んでみて娘と同じような症例が載っていたことに驚いたという。そして障害について分かりやすく書かれていたことで今後の関わり方についてとても参考になったそうである。

この記事を書くにあたって鈴木先生の書著を読んでみると改めてその内容の先進性に驚かされる。今でこそアスペルガーについて書かれている本も多いが、アスペルガー症候群について言及していたのはかなり画期的なことだと思われる。また名前こそ違え、今で言うADHDやLDに該当するような症例の紹介もされており、運動面や認知面の問題についても指摘されている。将来コミュニケーション上の問題が生じる可能性についても危惧されており、きめ細かく対応していくことの必要性についても今後の課題として触れている。

当時(1970年代)自閉症は親の育て方や愛情不足が原因で起こる情緒障害とされ、治療法としては遊戯療法が中心だったが、それについても「原因は不明」としており、「遊戯療法を中心とした心理療法では十分効果がないことが次第に明らかになった。最近は行動療法的アプローチが行われているが、批判もあり、今後の結果にまたなければならない。その意味で言語治療的アプローチも十分考慮される必要があり、一部では工夫をこらして試みられている。」という見解を示している。

その頃から療育の仕事をしている専門家に以前鈴木先生の話を聞いたところ、鈴木先生のグループの話というのはとても新鮮だったそうで、「当時はあまりにもその頃の定説と違うために信じられないこともあったけど、色々仕事をしてきて鈴木先生の見解は正しかったと改めて実感する」という回答をいただいた事があった。

残念ながら鈴木先生は若くして亡くなったそうで、私が持っている本がほぼ最後に書かれた本だったらしい。何人かの先生から「その本は先生の理論の集大成というべき本だったし、小児の発達障害について勉強するには古典というべき本でとても貴重な物なんだよ。」と言われた。

そういう意味では私が鈴木先生の著書を手にしている、というのはある種の縁があったということなのだろう。この本のお陰で私達親子は随分助けられたし、私自身大人になって専門家になることでこの本に書かれた内容をさらに応用して仕事をしてきた。私の中で先生の理論は生かされていると感じていることは多い。

それと同時に鈴木先生が早世されたことは本当に残念でならない。もっと長生きされていたら先生から色々な見解をいただけかもしれないし、日本の療育の流れはもう少し変わっていたかもしれない、と思う。

いずれにしても今から30年以上前に現在発達障害と言われている障害は日本の一部では既に理解している人たちが存在し、研究・検査・治療などが行われていたという事実があったのである。そしてその恩恵を受けられた私はとても感謝しているのである。

参考文献・引用文献
鈴木昌樹  小児言語障害の診療 -言語発達遅滞を中心に- 金原出版 1974


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