天才とAS
――この紙一重のものたち――


 「狂気を欠いた天才はいない」と人類は大昔から言ってきました。そのことを実証しようとする学問をパトグラフィー(病跡学)といい、伝説的な人物たちがどんな精神的障害を持っていてそれがどう創造的な才能に結びついているかということが論じられます。その「創造的な狂気」と見られていたものに、実はアスペルガー症候群つまり自閉的パーソナリティがかなり関係しているということが今後明らかになってくるでしょう。

 テンプル・グランディンというアスペルガー症候群(高機能自閉症ともいえる)の米国人女性は、ある専門分野で大変成功している人ですが、彼女の最近の著書では、ゴッホ、アインシュタイン、ヴィトゲンシュタインがアスペルガー症候群または高機能自閉症だっただろうということに触れています。また、ビル・ゲイツ(マイクロソフト会長)にも同様の特徴が見られることは、すでに「TIME」誌などで指摘されています。

参考文献:
『自閉症の才能開発――自閉症と天才をつなぐ環』(テンプル・グランディン著、学習研究社)
 (原題:Thinking in Pictures

関連リンク:
「DIAGNOSING BILL GATES(ビル・ゲイツを診断)」「TIME」誌1994-1-24
「アスペルガー症候群[から/を]見たウィトゲンシュタイン」福本修[イマーゴ]96年10月号
「自閉症におけるハンディキャップと才能の二面性」じゃじゃ丸トンネル迷路より

 コンピュータ・ソフトウェアの仕事をしているアスペルガー症候群の人なんて世界中に無数にいるのではないかと思います。才能に恵まれていて働きものの人もいれば、私みたいな無能でしかも怠けものもいますので、あんまり特別視されても大変です。それはともかくコンピュータに限らず、あらゆる専門的な職業や創造的な仕事にアスペルガー症候群の人が進出していると思います(お笑いタレントから精神科医まで!たぶん)。

 それと、自閉症的才能であるといわれるvisual thinkingについて、典型的な自閉症(カナー症候群)から遠いアスペルガー症候群になるほどそれはなくなるということはテンプル・グランディンも指摘しています。むしろ、言語能力がきわだっていることさえみられるようになります。世界的ベストセラーになった『自閉症だった私へ』(原題:Nobody Nowhere)を書いたドナ・ウィリアムズはまさにそのような天才だったと思います。彼女はまた、外国語を習得するのも何の苦労もなく、すぐに何ヶ国語もできるようになったともいいます。そのような言葉をあやつる才能を持ったものが小説家などとして成功していてもなんの不思議もありません。そして、私みたいにvisual thinkingなんて能力もなければ、記憶力は悪いし、言語能力も劣っているできのわるいアスペルガー症候群もあるわけです。

 あなたが何か天才的才能があるのならそれを積極的に活かせばいいし、そうでなくたって大丈夫。ゴッホだって「何事も中途半端にしかできないような、むら気で落ち着きのない性格の少年だった。27歳になるまで次々と職をかえた」(出典:Encarta97)といいます。まったくさえないやつだったのです。それでもちゃんと絵描きになりました。それが27歳よりもっと遅くたって別によかったのです。そしたらきっとそのぶん長生きしたことでしょう(37歳で自殺してしまった)。

 ASのやることなすこと考えることは「独創的というより不適切」などとASについての本には書かれます。でも不適切なことを排除したところにはいかなる独創もありえないのです。active but oddであることをおそれちゃいけません。