ウタ・フリス氏が書いているのをちょっと引用:
『自閉症とアスペルガー症候群』(ウタ・フリス編著、冨田真紀訳、東京書籍)p.27より
 アスペルガーは決然としてこれらの子供たちを擁護しましたが、大方の目には彼らはひどく憎々しいいたずら坊主としか映りませんでした。彼らは、いっこうに子供らしくない子供でした。どこにも適合しない厄介者だったのは、彼らがどんな権威も尊重しなかったからです。彼らは、親の生活を悲惨にし、教師を絶望に追いやりました。ほかの子供たちも大人も、このおかしな奴らがあまりに憎たらしくて、よってたかって嘲笑を浴びせました。一人の年若い医師が、こうした難しい子供たちに心奪われたのは、ひとつの小さな奇跡だったのです。

ハンス・アスペルガー氏の論文「子供の自閉的精神病質」より少し引用:
『自閉症とアスペルガー症候群』(ウタ・フリス編著、冨田真紀訳、東京書籍)p.83より

 ……私がこれから示す子供たちは、全員がそろってある基本障害を持ち、それは子供たちの体つきに、その表現機能に、のみならず、彼らの一挙一動に姿を現します。この障害は、社会への適応に重大な特徴的困難をもたらします。多くのケースでは、この社会性の問題は極めて深刻であり、ほかのすべてに影を投げかけます。ところが、ケースによっては、その問題は高水準の独創的思考と経験によって埋め合わされます。これが、後半生に類のない成果につながることがよくあるのです。私たちは、このタイプのパーソナリティ障害をここに示すことで、特別な人間には特別な教育的措置が、その独特の問題を考慮に入れた治療が必要であるとの主張の正しさを立証できます。さらに人間とは、たとえ異常があっても、理解と愛情に、そして指導を受ける機会にさえ恵まれれば、共同体のなかで彼らの社会的役割を存分に果たせることを明らかにできます。……

 つづきを読みたい方は、『自閉症とアスペルガー症候群』をどうぞ。この1944年のアスペルガー氏の論文のほか、最近の研究者による興味深い論文が収録されています。

 アスペルガー氏が名付けた「自閉的精神病質」(autistic psychopathy)という言葉は現在では使われません。精神病質という言葉は昔の言葉で、今では人格(パーソナリティ)障害という言葉が使われるので、「自閉的人格障害」(autistic personality disorder)と呼んでもよさそうですが、そうはいわないで、「アスペルガー症候群」というようになりました。「アスペルガー・タイプの自閉症」という言い方をする人もいます。これに対していわゆる古典的な自閉症は、カナー・タイプです。これは1943年に自閉症のことを最初に論文発表したレオ・カナー氏からきていて、単に自閉症というとこれを指すのが一般的です。このふたつの自閉症は連続的につながっていていろいろな中間型があるとも考えられています。さらに、軽い方のアスペルガー症候群と「正常」な人との間にももしかしたら連続性があるのかもしれません。