AS というのは、もちろんアスペルガー症候群(Asperger syndrome)のことです。1944年にオーストリアのハンス・アスペルガーという小児科医がとても変わっていて魅力的な子供たちを「自閉的精神病質」として症例報告したものが、比較的最近になって世界的に注目されるようになり、「 アスペルガー症候群」として精神医学の教科書にも載るようになりました。
ふつう自閉症というと、より障害が重く言語能力も損なわれているものを指し、その多くは知的発達障害を伴っているのですが、知的には正常レベルの自閉症(IQ70~85以上)のことを「高機能自閉症」といいます。その高機能自閉症の仲間で、言語面に遅れがない特徴をもつのがアスペルガー症候群です(専門家の間でもこれらが同じものか違うものかという論争があります)。高機能自閉症やアスペルガー症候群のことをまとめて「高機能広汎性発達障害」ともいいます(「広汎性発達障害」というのは自閉症圏の障害の総称です。最近は自閉症スペクトラムとも言われています)。児童精神医学や小児神経科の分野で扱われていて、確かに子どものときに学校の集団生活に適応できなくてとても大変なのだけど(いじめの対象になりやすく、学校の先生からも理解されにくい)、おとなになればまったく普通の人になるかといえばそうともいえません。専門分野で能力を発揮するなどして大変な成功をしている人がいる一方で、社会に適応する上でとても困難を持っていることが多いのも現実です。
参考:
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「高機能広汎性発達障害への心理療法的接近から」…
辻井正次先生(発達臨床心理学)[イマーゴ]96年10月号
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「自閉症圏障害の新しい統計値について」…自閉症協会京都支部による英国自閉症協会の記事の紹介
成人当事者で子どものときに「自閉傾向」と言われるような場合、アスペルガー症候群のことが多いでしょう。また、最近では、学習障害(LD)ということがよく言われるようになりました。全般的知能が正常レベルなのに、読み、書き、計算など特定の学習能力の困難があるというのがそれなのですが、アスペルガー症候群のような社会性の問題についても使われるようになり混乱を生みだしています(参考: 学習障害の診断についての辻井先生のノート)。学習能力に特に問題がないのに、「お前は学習障害だ」なんて言われてたら、その子が正常な自己イメージを獲得していく上でも有害なのではないかと心配です(専門家の間でのLDとアスペルガー症候群の区別についての論争に立ち入るつもりはありませんが)。ともあれ、学校教育の場で辛い思いをするということでは共通しているでしょう。教育関係者に、LDとともにアスペルガー症候群のこともぜひ理解してほしいと願います。